
地球温暖化によって北極の気温が上がり,以前にはいなかった病原体が繁殖して広がるようになった。寄生性の線虫がジャコウウシを冒し,マダニが北極圏の人々にウイルスをうつし,蚊が媒介する野兎病菌がスウェーデンなどで広がっている。海氷が消えて往来が可能になったため,大西洋にいたアザラシが太平洋のアザラシに接触して致死的なウイルスをうつしたとみられる例もある。観察されている病気の増加は単に科学調査拡大の結果である可能性も捨てきれないが,「北極は感染症と気候変動のパンドラの箱となっている」と専門家は指摘する。基本となる情報の収集と国際協力による対策が必要だ。
再録:別冊日経サイエンス238「感染症 ウイルス・細菌との闘い」
再録:別冊日経サイエンス214「人類危機 未来への扉を求めて」
著者
Christopher Solomon
環境と野外生活についてNew York Times紙や Outside誌などに記事を執筆している。
原題名
Sickness in the Arctic(SCIENTIFIC AMERICAN August 2014)