日経サイエンス  2014年12月号

詳報 ノーベル化学賞

細胞内の生命現象を見る 超高解像度の蛍光顕微鏡の開発

古田彩(編集部)

 真に優れた発想は,いずれ必ず時代が呼ぶ。2014年のノーベル化学賞は,それを強く印象づけた。

 

 受賞が決まったのは,独マックス・プランク研究所のヘル(Stefan W. Hell)博士,米ハワード・ヒューズ医学研究所のベツィヒ(Eric Betzig)博士,米スタンフォード大学のモーナー(William E. Moerner)博士。細胞を生きたまま,その中の構造や動きを観察できる超高解像度の顕微鏡を開発した業績が評価された。

 
 細胞を生きたまま観察し,その中の小器官の動きやタンパク質の移動を見ることは,生物研究者の長年の願いだった。だが物理法則の壁がある。不確定性原理のために,極めて近接した2点から発した光は重なり合って見分けられない。識別可能な最小距離(回折限界と呼ぶ)は光の波長で決まり,可視光の場合約200nmだ。細胞内の小器官やタンパク質複合体は数十nm〜数百nmで,従来の光学顕微鏡で観察するのは不可能だった。可視光よりはるかに波長が短い電子線を使う電子顕微鏡なら観察できるが,細胞に大きなダメージを与える。生きものの観察で200nmの壁を越えるのは原理的に不可能と,長年考えられていた。

 

 だがヘル博士は1990年にPh. D.を取得した時から,この壁を何とか乗り越えたいと考え始めた。ドイツでは受け入れられなかったが,フィンランドのトゥルク大学の蛍光顕微鏡の研究チームに参加して研究を始めた。一方,ベツィヒ博士もそのころ,米国のベル研究所で,回折限界を回避する方法を考えていた。

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