日経サイエンス  2014年10月号

特集:広がる知覚

センサー網が実現するESP

G. ドゥブロン(マサチューセッツ工科大学) J. A. パラディーゾ(マサチューセッツ工科大学)

 私たちは膨大な数のセンサーに囲まれている。パソコンにはカメラとマイク,スマートフォンにはGPSセンサーとジャイロスコープ,オフィスビルには温度や湿度のセンサーが組み込まれている。そうしたセンサーの情報は,現在はそれを持つ機器だけが利用しているが,もしネットワーク経由で共有できるようになったら,世の中は劇的に変わるだろう。

 

 至る所に存在するセンサーの情報を人間の知覚に結びつけることが可能になれば,我々は空間を飛び越えて,あたかもその場にいるかのように感じられるようになる。マサチューセッツ工科大学メディアラボのJ. A. パラディーゾ准教授らは,同所から約70km南下した自然豊かな湿原,ティドマーシュ・ファームズを「体感」できるシステムの開発を進めている。温度や湿度,光,動き,風,音,化学物質などのセンサー網を現地に構築し,その情報をMITの3次元画像ブラウザーに埋め込む。小川のほとりを歩くと水面下の音がし,木々を見上げるとてっぺんにいる鳥のさえずりが聞こえるだろう。

 

 センサーとコンピューターによって遠く離れた場所への旅行が可能になり,リアルタイムにそこにいられるようになると,「ここ」とか「今」といった概念は新たな意味を持つようになるはずだ。「存在」という言葉の意味すら変わるかもしれない。
 
 
再録:別冊日経サイエンス207「心を探る 記憶と知覚の脳科学」

著者

Gershon Dublon / Joseph A. Paradiso

ドゥブロンはマサチューセッツ工科大学メディアラボの博士課程の学生。センサーデータを調査・理解するための新しいツールを開発している。パラディーゾは同大学メディアラボのメディアアート・サイエンスの准教授で,応答環境グループのリーダー。センサー網がいかに人間の体験や知覚,人々の交流を増進し,媒介するかを探求している。

原題名

Extra Sensory Perception(SCIENTIFIC AMERICAN July 2014)

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