日経サイエンス  2014年10月号

特集:広がる知覚

編集部

 どこでもドアやタイムマシンといった,かつてSFやマンガの世界にしか存在しなかった技術が,私たちの生活の中に入ってこようとしている。生身の人間が空間や時間を越えて移動するのは難しいが,私たちの「感覚」に,彼の地や過去の出来事がもたらす刺激を注入することで,あたかも彼の地を本当に訪れたかのような,またはその場に本当にいたかのような感覚を作り出す技術だ。それは現代科学によって,私たちの「感覚」を空間や時間を越えて広げる試みでもある。

 

 これをもたらしたのは,IT技術の発展と,脳科学からのアプローチだ。本特集では,そうした未来技術への試みを,計算機科学と脳科学の専門家にそれぞれ語ってもらった。

 

 「センサー網が実現するESP」を執筆したマサチューセッツ工科大学メディアラボのJ. A. パラディーゾ准教授らは,同所の隅々に張り巡らされたセンサーの情報を画像化し,刻一刻と変わる状況をリアルタイムで示すアプリケーションを開発。これを用いて,同所から70km離れた自然豊かな湿地の雰囲気を味わえる,新しい遠隔体験システムの開発を進めている。

 

 「代替現実で時間をワープ」では,理化学研究所の藤井直敬チームリーダーらが構築した「代替現実(SR)システム」を取材した。過去と現在が交錯する不思議な多重世界を提示するシステムを実際に体験し,そこで感じたことをなぜ「本物の体験」だと認識するのか,その理由を探ってみた。

 


センサー網が実現するESP  G. ドゥブロン/J. A.パラディーゾ

代替現実で時間をワープ  古田彩/協力:藤井直敬