日経サイエンス  2014年7月号

特集:脳地図革命

テレビを見ていると,あることを考えたり,特定の行動をしている時,脳の一部分が活発に活動していることを示す脳画像がよく出てくる。脳科学は着々と進歩しており,脳の働きもかなりわかってきたような印象を受けるが,実のところ,脳機能の全体像はまったくと言っていいほどわかっていない。

 

どのような脳活動によって,私たちに感情が生まれ,行動が決まるのだろうか。それを知るには,神経細胞(ニューロン)同士がどのように信号をやりとりし,集団的なネットワークを形成しているかを解明する必要がある。脳には1000億個のニューロンがあり,個々の反応を調べるのは不可能と思われてきたが,遺伝子技術やナノテクノロジーの発達で,その目標が射程内に入ってきた。米国と欧州,日本で始まった,ニューロンのネットワーク解明を目指す新たなうねりを紹介する。

 

脳の実相に迫る  R. ユステ/G. M. チャーチ

ニューロンは信号を受け取ると,自らの膜電位を変化させる。これを細胞レベルで可視化し,ニューロン同士の情報伝達を追跡することができるかもしれない。脳計測の新技術の最前線を紹介する。

 

脳の遺伝子アトラス  E. レイン/M. ホールリッツ

人間特有の複雑な行動と個性を生み出す大脳皮質。その各領域で発現する遺伝子のパターンを調べてみたら,驚くほど一様で差がなかった。大脳の振る舞いは各領域の遺伝子発現の差ではなく,ニューロン同士の回路の形成と,そこに加えられた刺激の履歴で決まるようだ。