
日常生活において1秒という時間はあっという間だが,今から約138億年前,宇宙誕生からの1秒間には,劇的な事件が立て続けに起きた。最大の事件は宇宙誕生そのものだが,それに次ぐ大事件はインフレーションだ。宇宙が光速をはるかに超えるスピードで加速度的に膨張して時空の歪みを引き伸ばし,非常に均一になった後,ビッグバンという火の玉状態をもたらした。単細胞のアメーバが一瞬にして天の川銀河のサイズになってしまう,そんなおとぎ話のような急膨張が本当に起きたのか,実証するのは非常に難しいとみられていたが,今年3月,インフレーションが起きた証拠を発見したとのニュースが世界を駆け巡った。それが本当に確かなのか,年内には天文衛星による観測結果も発表される。今回の発見を受け,インフレーション理論の研究にも弾みがつきそうだ。人類は宇宙の夜明けの,まさに曙光を目にしようとしている。
著者
中島林彦 / 協力:佐藤勝彦(さとう・かつひこ) / 羽澄昌史(はずみ・まさし) / 小玉英雄(こだま・ひでお)
中島は日経サイエンス編集長。佐藤は自然科学研究機構長。インフレーション理論の提唱者の一人。羽澄は高エネルギー加速器研究機構教授。POLARBEARの日本グループのリーダー。天文衛星LiteBIRDの計画を主導している。小玉も高エネルギー加速器研究機構教授。羽澄が進めるプロジェクトの理論部門のリーダー。宇宙初期進化の直接観測に基づく究極理論を研究している。
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