日経サイエンス  2014年5月号

フレッシュマンのための読書ガイド

BOOK REVIEW 特集

編集部

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 発売中の5月号「フレッシュマンのための読書ガイド」では,この春に大学や大学院に進学される方,新たに社会に出られる方のために,3人の方にお薦めの本を紹介していただきました。皆様へのメッセージとともに,その一部をお届けします。

 

自分の道をめざす人たちのために

 佐々木閑・花園大学教授がお薦めする一冊目は『天上の歌 岡潔の生涯』(帯金充利著,新泉社)。高くジャンプする岡潔と1匹の犬の写真。印象的な表紙に惹きつけられ,思わず手に取りたくなる本です。生涯を通して難問に挑み続けた孤高の数学者の歩んだ道とは?「『天上の歌』を聞くことのできる数学者の苦悩と歓喜を余すところなく伝える良書である」。
 佐々木氏は工学部を卒業後,仏教を学び,現在は仏教学者として活躍されています。ご専門のインド仏教の分野から選ばれたのは『ミリンダ王の問い』(全3巻,平凡社)。ギリシャ的実在論と諸行無常の教えを説く仏教。科学とどのようなつながりがあるのでしょうか? 「異なる価値観を持つ文化が,理性を保ち相互に尊敬し合いながら対決するというきわめて異例な事態を対話形式で語る本書は,論理思考とはなにかという本質的問題とも関わりを持つ」。現代に生きる私たちがこの本から学べることはたくさんありそうです。

 

サイエンスには未開の地がいっぱい

 「ヒトとは何か?」 冒頭でこの問いを投げかけるのは塩見美喜子・東京大学教授。生物学研究の分野からバラエティーに富んだ本を選んでいただきました。生命進化の謎にミクロの視点で迫った『利己的な遺伝子〔増補新装版〕』(リチャード・ドーキンス著,紀伊國屋書店)は発行から40年近くを経たロングセラー。「自己複製子(遺伝子の元祖)」こそが進化の源と説くドーキンスの主張は生命進化に新しい解釈を与えました。
 一方,『想像するちから チンパンジーが教えてくれた人間の心』(松沢哲郎著,岩波書店)は,その対極ともいえるマクロな視点での研究。著者の松沢氏は,ヒトをヒトたらしめるものは「共育」「言葉」「想像力」と説きます。「チンパンジーは“今”を生きるため絶望しない。想像力を駆り立て希望をもつこともない。つまりヒトとは,想像力を駆使し,希望をもてる生物なのである」。

 

サイエンスライティングにも注目

 サイエンスライターで,翻訳者としても活躍されている渡辺政隆・筑波大学教授には,自然科学系のポピュラーサイエンス書を紹介していただきました。『博物学の時間』(青木淳一著,東京大学出版会)はダニの研究者が綴る楽しい読み物。渡辺氏は,青木氏が1968年に書いた『ダニの話』(北隆館)を読んだ当時,ダニの研究者になろうと決心したこともあったそうです。『昨日までの世界』(上下巻,日本経済新聞出版社)は,米国の生物学者でノンフィクション作家としても知られるジャレド・ダイアモンド博士の著作。「(人類の)社会性はいかなるものなのかを探り,現代社会に活かせる指針を分析した意欲的な書である」。
 最後は『サイエンスライティング 科学を伝える技術』(デボラ・ブラムほか著,地人書館)。書き手として長年この分野に携わってきた渡辺氏の言葉で締めくくります。「サイエンスは絶対的な答えを出す営為ではない。最も合理的な解釈を追求するのがサイエンスである。そういうサイエンスの知見をフルに盛り込んで読み応えのあるポピュラーサイエンス書の書き手を,あなたも目指してはどうだろうか」。