日経サイエンス  2014年4月号

特集:標準モデルのほころび

 素粒子物理学の理論的枠組み「標準モデル」は1970年代半ばに完成した。以来,標準モデルが存在を予想した素粒子が実験で次々に発見されてきた。万物に質量を与えるヒッグス粒子だけは長年,探索の手を逃れていたが,2012年,スイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究機構(CERN)にある世界最強の大型ハドロン衝突型加速器LHCを用いた実験で存在が確認された。これによって標準モデルは完全に立証された。
 しかし標準モデルで森羅万象を説明できるわけではない。ヒッグス粒子は発見されたが,様々な素粒子が,なぜ測定された質量の値を持つのか説明できない。物質を構成する素粒子は4種類で1セットになるが,それがなぜ3セット存在するのかも不明だ。暗黒エネルギーと暗黒物質の存在も標準モデルでは説明できない。質量ゼロとされていたニュートリノが質量を持つことも明らかになった。
 そしてもう1つ,謎が多いのがミュー粒子だ。ミュー粒子を用いて陽子の半径を測定したところ,電子を用いて測定した場合よりも半径がかなり小さくなってしまった。またミュー粒子の磁気的特性(磁気モーメント)を精密に測定した実験結果と理論値にズレがあることもわかった。
 こうしたミュー粒子の実験の矛盾やズレの背後には,標準モデルを超えた新理論から予測される新たな粒子の存在があるのかもしれない。日米欧はさらなる実験でミュー粒子の謎を解き明かそうとしている。

 

陽子のサイズが何かおかしい  J. C. ベルナウアー/R. ポール

ミュー粒子に表れた矛盾  中島林彦 協力:齊藤直人/森俊則

リサ・ランドールが語る展望  語り:L. ランドール

 

 

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

標準モデル陽子半径ミューオニック水素ミュー粒子ミューオンラムシフト電子散乱磁気モーメント電気モーメントCP対称性の破れ時間対称性の破れ超対称性余剰次元量子補正E821実験g−2/EDMMEG実験COMET実験J-PARC