
食欲は人間が生存するために必須の欲求の1つで,古代の人類はその欲望を満たすために一日の大半の時間を使っていた。お腹が減ったと感じるのも,カロリーが高い食物などをおいしいと感じるのも食欲がなせる技だ。ところが現代文明によって手軽にその欲求を満たせるようになった結果,人類はこれまで経験したことがない難題に直面することになった。肥満だ。肥満は健康に悪影響を及ぼすことが知られているが,多くの人が肥満を解消できずにいる。肥満は食欲をつかさどる脳のメカニズムと深く関わっている。しかし,その基本的なところがまだ科学的によくわかっていない。食欲を満たす対象,食物についても実は意外に複雑な面がある。本特集では,「ダイエット」「調理」「農業」という3つのキーワードで食欲,さらには食を広く深く考える。