日経サイエンス  2013年11月号

特集:眠りと夢の脳科学

 人や多くの動物は,なぜ毎日長い時間をかけて睡眠をとるのか? 疲れた体や脳を休めるためだけではないらしい。睡眠中,脳は覚醒時よりも活発に働いていることがあり,その時に脳内で行われている作業が,人や動物の生存に重要な役割を果たしていることがわかってきた。

 睡眠中に行われる重要な作業の1つが,記憶に関する処理だ。眠っている間に脳の神経細胞(ニューロン)の結合が強められることによって記憶が強化されると従来考えられていたが,実際には,逆に無駄なニューロン結合を弱めることで,記憶の内容が整理されていることがわかってきた。

 睡眠中に見る夢の役割についても,脳科学のメスが入れられようとしている。一見デタラメな内容であることが多い夢だが,科学上の重要な発見を含め,夢をヒントにアイデアやインスピレーションを得た例が数多く報告されている。人間の思考にさまざまな制約をかけている脳の領域の活動が睡眠時には弱まっており,これが覚醒時とは異なる発想を夢から得たり,問題解決に役立てたりすることと関係があるらしい。

 明晰夢という特殊なタイプの夢がある。夢を見ていることを自覚でき,場合によっては夢の展開を自分でコントロールできるものだ。このような夢を操る訓練をすることによって,不安障害などの治療や学習効果を高める試みが注目されている。

 

眠りが刈り込む 余計な記憶  G. トノーニ/ C. チレッリ

夢が教える発想  D. バレット

明晰夢の効用  U. フォス

 

 

再録:別冊日経サイエンス201「意識と感覚の脳科学」

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