日経サイエンス  2013年9月号

特集:未来へのタイムトラベル

宇宙船新人類

C. M. スミス(ポートランド州立大学)

 2011年にスペースシャトル「アトランティス」が地球に帰還してゆっくり停止したとき,人類の宇宙飛行の幕が下りたのではないかと心配する人もいた。だが,そうではなかった。恐竜の絶滅が初期の哺乳動物に繁栄をもたらしたように,シャトルの引退は宇宙探査への大きなチャンスの幕開けを告げた。野心的な民間企業の主導のもと,私たちは地球外への移住とまったく新しい世界への適応に向けて足を踏み出した。

 オンライン決済のペイパルで富を築いてスペースXを設立したマスク(Elon Musk)は,火星を目指すと公言している。極地探検家のシェーグレン夫妻(Tom & Tina Sjogren)は個人的に火星探検計画を練っている。欧州の民間投資によるマーズワン計画は2023年までに火星に植民地を建設することを目指している。宇宙への移住計画はすでに進んでいる。

 だが技術だけでは不十分だ。宇宙への移住が最終的に成功するには,技術的なことに加え,生物学や文化について慎重に配慮しなければならない。ロケットやロボットの開発だけでなく,人体や人々,家族,共同体,文化についての研究も不可欠だろう。宇宙植民地の人類学という分野を開拓し,曖昧模糊でダイナミック,しばしば腹立たしくもなる人間の生物文化的適応の問題に取り組まねばならない。そして生物に関する最も明確な事実,生物は時とともに進化して変わることを念頭に置きながら,この新しい冒険的事業を計画しなければならない。

 
 
再録:別冊日経サイエンス231「アントロポセン──人類の未来」

著者

Cameron M. Smith

オレゴン州にあるポートランド州立大学で人類進化を教えている。進化について SCIENTIFIC AMERICAN MINDに寄稿している。近著は「The Fact of Evolution」(Prometheus Books, 2011年)と「Emigrating Beyond Earth」(Springer Praxis Books, 2012年)。

原題名

Starship Humanity(SCIENTIFIC AMERICAN January 2013)

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