日経サイエンス  2013年9月号

フロントランナー 挑む 第30回

慢性腎臓病を治る病気に:柳田素子

永田好生(日本経済新聞編集委員)

一度悪くなったら元には戻らない
そんな腎臓病治療の“ 常識” が覆るかもしれない
異常な細胞を回復させる治療に道を開く成果を上げた

 

 

 長期にわたり腎臓の障害が続く「慢性腎臓病」の患者数が爆発的に増えている。効果的な治療方法がなく,患者の生活の質(QOL)を脅かす。国の医療経済への負担も大きい。社会の要請に応え問題解決への道を探ろうと,京都大学は2011年,腎臓内科学講座を新設した。その初代教授に就いたのが,柳田素子だ。 ( 文中敬称略)

 

 「京大医学部は講座間の垣根が低く家庭的な雰囲気。すばらしい先生方にたくさんの助言を頂いたおかげです」。柔らかな口調に,新設の講座を率いる気負いはない。しかし腎臓病の問題に触れる時は強い決意がにじむ。腎臓の濾過機能が衰えて人工透析を受ける患者数は国内で約30万人。1人当たりの医療費は年間500万円以上といわれる。透析の予備軍ともいえる慢性腎臓病の患者数は推定で1330万人とされ,今や「国民病」ともいえる状況だ。にもかかわらず腎臓病には依然として謎が多く,満足できる治療方法は確立していない。「発症の原因や進展する仕組みを解明して,治る病気にしたい」と目標を掲げる。

 

 その思いに通じる成果を11年,教授就任の直前に発表した。慢性腎臓病の2大合併症である「腎臓の線維化」と「腎性貧血」のメカニズムの一端を動物実験で解明したことだ。

 

 

再録:「フロントランナー 挑戦する科学者」

柳田素子(やなぎた・もとこ)
1969年神戸市生まれ。2001年京都大学大学院医学研究科修了。科学技術振興機構の創造科学技術推進事業「柳沢オーファン受容体プロジェクト」研究員,京大次世代研究者育成センター「白眉プロジェクト」特定准教授などを経て,11年京大教授。腎臓分野の若手研究者を表彰する「日本腎臓学会大島賞」(04 年)や内科学会奨励賞(08年)などを受賞。内閣府ライフイノベーション戦略協議会構成員や日本学術会議若手アカデミー委員などを兼務する。

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