
量子力学は非常に成功した理論ではあるが,奇妙なパラドックスに満ちている。量子ベイズ主義(Qビズム)という最近発展したモデルは,量子論と確率論を結びつけることで,そうしたパラドックスを解消,あるいはより小さな問題にしようとする。Qビズムは量子的パラドックスの核心をなす「波動関数」を新たな概念でとらえ直す。一般に波動関数は粒子がある性質(例えばある特定の場所に存在すること)を示す確率を計算するために用いられるが,波動関数を実在とみなすと様々なパラドックスが生じてくる。Qビズムによれば,波動関数は,対象の量子系がある特定の性質を示すはずだとの個人的な「信念の度合い」を観測者が割り当てるために用いる数学的な道具にすぎない。この考え方では,波動関数は世界に実在するのではなく,個人の主観的な心の状態を反映しているだけだ。
翻訳は慶応義塾大学大学院/日本学術振興会特別研究員の杉尾一さん,監修は芝浦工業大学助教の木村元氏。
*別冊への収載に当たり、
著者
Hans Christian von Baeyer
理論素粒子物理学者で,38年間教鞭を執ったウィリアム・アンド・メアリー大学の名誉教授。アメリカ物理学会のフェローであり,6冊の一般向け科学書がある。アメリカ物理学協会のサイエンス・ライティング賞を2度受賞したほか,ウェスティングハウスAAASライティング賞,全米雑誌賞(エッセイ・批評部門)を受賞している。
原題名
Quantum Weirdness? It’s All in Your Mind(SCIENTIFIC AMERICAN June 2013)
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