日経サイエンス  2013年6月号

フロントランナー 挑む 第27回

スピントロニクスを誰にでもわかる形に:湯浅新治

賀川雅人(日本経済新聞編集委員)

電子のスピンと電荷の両方を操って
新たな物理現象を実現する
科学の発見を人々にわかる技術につなげるのが狙いだ

 

 エレクトロニクスの先端分野,スピントロニクス研究の第一線にいる湯浅新治は,巨大TMR(トンネル磁気抵抗)効果を用いた素子の発明者として知られる。「性能の高い巨大TMRを実現したと言っても,一般の人には何のことやらでしょう」とさらりと話すが,湯浅の素子はハードディスクドライブの磁気ヘッドの性能を飛躍的に高め,ほとんどの製品に採用されている。基礎的な発見を一般の人がわかる形に応用して「世の中に夢を与えたい」。その思いを原動力に,大幅な省電力につながる新型メモリーの実現を目指している。 (文中敬称略)

 

 

再録:「フロントランナー 挑戦する科学者」

湯浅新治(ゆあさ・しんじ)
産業技術総合研究所 ナノスピントロニクス研究センター長。1968年神奈川県生まれ。96年慶応義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了,工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所。2004 年エレクトロニクス研究部門スピントロニクスグループ研究グループ長,10年4月から現職。日本IBM科学賞,日本学術振興会賞,朝日賞,井上春成賞,つくば賞など受賞。趣味は写真撮影。

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