日経サイエンス  2013年4月号

特集:首都直下地震

見えてきた地下構造

中島林彦(編集部) 協力:平田 直(東京大学地震研究所) 佐藤比呂志(東京大学地震研究所)

 2011年3月11日,東日本大震災をもたらした巨大地震「東北地方太平洋沖地震」で首都圏も激しく揺れた。広域停電が起き通信網が混乱,交通網が麻痺して約500万人に達する帰宅難民が発生した。その最中にあっても首都圏各地の小中学校の校庭や公園に設置された真新しい地震計群は正常に稼働し続けた。停電になった地震計は自動的に予備電源(約2日間もつ)に切り替わり,通信混乱の影響を受けた地震計は回線の復旧を待って,蓄えたデータを自動送信した。得られた膨大な観測データは首都圏の地下を探り,地震活動を解明する上で貴重な情報となった。
 私たちの頭上の世界は数十億光年以上先まで見通すことができるが,足下の世界は数十kmの距離であっても詳しいことがわかっていない。日本列島でいうと,とりわけよくわかっていないのが首都圏の地下だ。そのわからなさ加減は,東北地方太平洋沖地震の不意打ちを受けた東北日本や,東南海地震や南海地震が懸念される西日本と比べても際立っている。約3000万人の人々がいわば巨大なブラックボックスの上で暮らしていることになる。
 そこで国は首都圏地下のブラックボックスに光を当てようと,2007年から5年計画で「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト(首都直下プロジェクト)」を実施した。中核となったのは東京大学地震研究所で,防災科学技術研究所と神奈川県温泉地学研究所などが協力した。冒頭に紹介した地震計の観測網は,この首都直下プロジェクトの一環で整備された。各地の小中学校の協力を得て,首都圏中心部の半径約80kmの円内,数km間隔で地震計を設置した。これほど密な観測網を構築するのは日本でも初めて。この首都直下プロジェクトによって,活断層の全貌が浮かび上がってきたほか,東京湾北部地震,いわゆる首都直下地震をもたらす震源断層(陸側プレートとフィリピン海プレートの境界面)が従来推定より約10km浅く,揺れが激しくなることなどがわかった。

 

 

再録:別冊日経サイエンス217 「大地震と大噴火 日本列島の地下を探る」

 

著者

中島林彦 / 協力:平田 直 / 佐藤比呂志

中島は日経サイエンス編集長。平田は東京大学地震研究所地震予知研究センター教授(センター長)。専門は観測地震学。「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」で研究代表者を務め,高密度の地震観測網の構築で中心的役割を果たした。佐藤も東大地震研地震予知研究センター教授。専門は構造地質学など。首都直下プロジェクトでは人工地震波による探査のリーダーを務めた。

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