日経サイエンス  2013年3月号

特集:量子ゲーム理論

日経サイエンス編集部

人間社会はパラドックスに満ちている。民意をくみ取るための選挙は有権者の好み以上に制度設計に結果が左右され,個人にとって合理的な行動はしばしば全体の利益を損なう。だがこうしたパラドックスも,量子力学的な選択が可能なら解決できることがある。実行可能な選択肢が広がり,より豊かになるからだ。

 

量子力学では「イエス」と「ノー」だけでなく,「イエスとノーをある確率で混ぜ合わせる」,「全員の選択肢を連動させる」といった選択が可能だ。そうした選択を考慮したとき,集団の行動とその結果がどう変わるかを調べるのが「量子ゲーム理論」だ。

 

量子力学はこれまでも,「量子もつれ」などの奇妙な現象を使って,実行可能な計算操作の幅を広げた量子コンピューターや,絶対破れない量子暗号などの新技術を生み出してきた。だが,これらと人間の意志決定には根本的な違いがある。量子情報技術は量子現象がはっきりと表れる光子や電子などのミクロな物体を用いるが,人間はマクロな生物で,量子現象が直接関与するとは考えにくいことだ。

 

にもかかわらず量子ゲーム理論が注目を集めているのは,実際の人間の非合理的な行動が,量子力学を導入することでなぜかうまく説明できてしまう例があるからだ。これは単なる偶然だろうか? それともミクロな世界を語る量子力学とマクロな人間の意志決定の間に,知られざる共通項が隠れているのだろうか。答えは出ていないが,研究者は後者の可能性を考え始めている。

 

 

パラドックスに合理あり  G. マッサー(SCIENTIFIC AMERIAN 編集部)

 

量子で囚人を解き放つ  筒井泉(高エネルギー加速器研究機構)

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