日経サイエンス  2012年12月号

詳報:ノーベル生理学・医学賞

最初のリプログラミング実験

E. M. デ・ロバーティス J. B. ガードン(ともに英ケンブリッジ大学MRC分子生物学研究所)

 この記事は2012年のノーベル生理学・医学賞に決まったJ. B. ガードン博士がE. M. デ・ロバーティス米カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授と共同執筆した記事の再録である。今回の最大の授賞理由となった体細胞核の遺伝子発現をリプログラミング(初期化)した実験は,アフリカツメガエルの小腸の細胞から核を取り出し,あらかじめ核を破壊しておいた卵に移植したところ,卵が正常に分裂してオタマジャクシを経てカエルに成長したというもので,細胞分化についての考え方を根本的に変えた。それ以前は,受精卵が様々な細胞に分化していく過程で,その細胞に必要でない遺伝情報は失われてしまうと考えられていたのに対し,細胞は遺伝子をすべて保持しつつ,その発現のパターンを変えていることを実証した。

 記事ではこのほか,遺伝子の発現がどのように調節されているかを,卵細胞を“生きた試験管”として利用することで探るアプローチが詳しく述べられている。30年以上前の記事だが,翻訳にあたった江口吾朗・尚絅学園顧問(当時は名古屋大学教授)は「現在の目で見ても,修正すべきところがほとんどない」と話している。

 

 *本記事はサイエンス(日経サイエンスの前身)1980年2月号に「遺伝子移植で発生をさぐる」と題して掲載。今回の再録にあたり改題し,本文の一部を修正しました。

著者

Edward. M. De Robertis / Sir John B. Gurdon

デ・ロバーティスは米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の生化学の教授。南米ウルグアイのウルグアイ大学で1971年に医学博士号,74年に化学分野でPh. D. を取得。この記事を執筆した当時は英ケンブリッジにある英国MRC分子生物学研究所でガードンと共同研究していた。その後,スイスのバーゼル大学を経て現職。

ガードンは英ケンブリッジ大学教授。オックスフォード大学でPh. D.を取得後,米カリフォルニア工科大学,オックスフォード大学を経て,71年から現在まで英ケンブリッジ大学で研究に取り組む。71年から83年までは英国MRC分子生物学研究所を拠点とする。1989年にはケンブリッジ大学ウエルカムCRC研究所を設立。同研究所は2004年,ガードン博士の業績を顕彰してガードン研究所に改称された。イスラエルのウルフ賞,米ラスカー賞などを受賞(ラスカー賞は山中氏との同時受賞)。

原題名

Gene Transplantation and the Analysis of Development(SCIENTIFIC AMERICAN December 1979)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

プラスミド卵母細胞リプログラムリボソームRNAスプライシング