
動物の身体は,もとをただせば1個の受精卵だ。これが分裂を繰り返し,皮膚,心臓,神経など,特定の形と機能を持った細胞に分化して成熟する。このプロセスの中で,細胞は不要な遺伝子を捨てていくのか,それとも持ち続けているのか?
そんな疑問に答えを出したのが,山中伸弥京都大学教授とノーベル賞を共同で受賞したJ. B. ガードン英ケンブリッジ大学教授だ。ガードン教授は1962年,オタマジャクシの腸の細胞核をもとにクローンガエルをつくることに成功。個体を形づくるすべての細胞は同じゲノム情報を持つことを示した。不要な遺伝子は捨てられるのではなく,ロックがかかって働かないようになるのだ。ガードン教授とその後継者たちは,「卵の不思議な力」を借りることで,このロックを外すことに成功した。一方山中教授は,この「不思議な力」の正体を突き止め,利用しようと考えた。
*本記事は日経サイエンス2008年7月号「iPS細胞の衝撃」のコラムに加筆・修正して再録したものです。
著者
詫摩雅子
日本経済新聞社科学技術部,日経サイエンス編集部を経て,2011年より日本科学未来館勤務。
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