日経サイエンス  2012年11月号

脳丸ごとシミュレーター

H. マークラム(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)

 世界の約130大学が参加,人間の脳の完全なシミュレーターを開発する「ヒト脳プロジェクト」が実現に向けて動き始めた。脳にある100兆個のシナプスの接続を測定するのは不可能で,コンピューターで再現できない。そこでプロジェクトでは,脳内において各種の細胞がどのように分布し,どう互いに接続されるかを決定する一連の仕組みを突き止め,それらをソフトウエア化して,コンピューター上で脳を構築しようとしている。現在,ほかの5プロジェクトとともに,欧州連合(EU)の大型研究資金の獲得を目指してしのぎを削っている。選考で上位2つの中に入れば10年間で最大10億ユーロが支給される。結果発表は来年2月の予定だ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス201「意識と感覚の脳科学」

著者

Henry Markram

スイス連邦工科大学ローザンヌ校でブルー・ブレイン・プロジェクトを指揮している。ニューロンがどのように相互接続し,対話し,学習するかについて,広範な研究を行ってきた。また,脳の可塑性の基本原理を発見し,自閉症のインテンス・ワールド説と,脳は絶えずかき乱される液体のように計算を行っているとする説を共同研究者とともに提唱した。

原題名

The Human Brain Project(SCIENTIFIC AMERICAN June 2012)

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