
7月4日,スイス・ジュネーブ近郊の欧州合同原子核研究機構(CERN)で,万物に質量を与えるヒッグス粒子とみられる新粒子の発見が発表された。この世紀の発見のドラマは約半月前に始まっていた。CERNが擁する世界最強の加速器LHCは春以降,膨大な量の実験データを生み出していたが,6月14日,全データの封印が解かれ,多くの若手科学者が徹夜で解析に取り組んだ。翌6月15日の暑い午後,結果報告を聞こうと数百人の実験メンバーで部屋はいっぱいになり,多くは立ったままか,床に座り込んだ。ほとんどは前夜ろくに眠っていない。緊張と興奮が部屋を満たした。その発表の終わり頃,満員の聴衆が歓声を上げる瞬間が訪れた。
著者
Michael Riordan / Guido Tonelli / Sau Lan Wu
リオーダンは科学史研究家・作家で『クォーク狩り』(邦訳は吉岡書店)など著書多数。現在は計画中止に終わった超電導超大型加速器SSCの歴史を執筆中。
トネッリは伊ピサ大学の教授でイタリア国立核物理学研究所の研究員。1993年からCERNでCMS実験に携わり,2010年と2011年にはその代表者を務めた。
ウーはウィスコンシン大学マディソン校のエンリコ・フェルミ記念教授。まずはCERNのLEPで,1993年からはATLAS実験のメンバーとして,20年以上にわたってヒッグス粒子を探してきた。
原題名
The Higgs at Last?(SCIENTIFIC AMERICAN October 2012)