
1986年6月のある日の早朝,著者はロングアイランドの潮だまりで大発見をした。巻貝の殻を水中に落とすと,数分後にヤドカリがさっと近づき,古い隠れ家から出て,その貝殻の中に身体を押し込んだ。その数分後,別のヤドカリが最初のヤドカリが捨てていった家を見つけ,新たな住まいとともにそそくさと去った。さらにその10分後,3番目のヤドカリがやってきて,2番目のヤドカリの残した古い家を見つけて自分のものにした。社会学者と経済学者が「空家連鎖」と呼ぶものを動物が利用しているのを観察したのは初めてのことだった。経済行動のなかには人間レベルの知性を必要としない,生物の世界に普遍的にみられるものがあるようだ。
著者
Ivan Chase
ストーニーブルック大学の名誉教授で,同大学の社会組織研究所を率いている。社会学と生態学,進化に関するテーマ,特に順位制と希少資源配分について研究している。熱心なシーカヤッカーでもある。
原題名
Life Is a Shell Game(SCIENTIFIC AMERICAN June 2012)