
多くの動物が親族に対して利他的行動を示す。しかし,身内ではない人を相手に利他行動を示すのは人間だけだ。見返りが期待できなくても協力することがあるし,社会的な評価が高まらなくてもそうした行動を取る。実験では,人は協力者に報い,離反者を罰した。懲罰を科すのにコストがかかる場合でも,罰する。
なぜそうするのかは科学的な謎だった。そうした利他行動に直接の益はないし,個人にとっても得にはならないので,利他行動者が生き残る可能性は低下すると考えられるからだ。最近の実験によって,よりニュアンスに富んだ仮説の可能性が示された。遺伝的な進化と文化的な進化が組み合わさって,利他的社会が生まれたとする見方だ。
著者
Ernst Fehr / Suzanna-Viola Renninger
フェールはスイスのチューリヒ大学実証経済研究所の所長。レニンガーは心理学のPh. D. を持つ生物学者で,チューリヒでジャーナリストとして活動している。
原題名
The Samaritan Paradox(SCIENTIFIC AMERICAN MIND December 2004)