
ここ300~400年,巨大地震はないから今後も起きないだろう──。そう思っていたところに500~1000年間隔で起きる途方もない地震が再来した。私たちは東日本大震災で日常感覚よりはるかに長い時間スケールで繰り返す自然災害の恐ろしさを身をもって知った。似たような事態がより大きなスケールで人類に襲いかかる可能性が最近明らかになった。太陽で起きるフレアという爆発現象だ。
フレアも地震と同様,小さなものは頻繁に起こり,大きくなるほど繰り返し期間は長くなる。これまで知られている最大のフレアは約150年前の1859年に起きたもので,爆発エネルギーは水素爆弾10億個に相当する10の33乗エルグ(推定には幅があり10の32乗から10の33乗エルグ程度。ここではその上限値を採用する)。もし今,同規模のフレアが発生すれば人工衛星は全滅,世界で通信障害が起き,各国で大停電が数カ月間以上続く恐れがある。人類文明は危機に瀕する。
1859年のフレアは英国の天文学者キャリントンが観察していたので「キャリントンフレア」という。このフレアはここ200年で最大で,それ以上のフレアについては,はっきりした記録はない。そうしたことから,太陽ではこれが最大のフレアだと漠然と考えられている。
「しかし本当にそうなのだろうか?」と疑った研究者がいた。長年,太陽を研究してきた京都大学附属天文台の柴田一成教授(台長)だ。記録が残っている中ではキャリントンフレアが最大だとしても,数千年以上のスケールで考えれば,さらに大きい「スーパーフレア」が起きている可能性もあるのではないか? 柴田教授は天文台スタッフや京都大学の学生有志と協力,系外惑星探査を主目的としたケプラー宇宙望遠鏡の膨大な量の恒星観測データを,フレア探索の角度から解析した。
その結果,5000年~1万年という時間スケールでは,爆発エネルギーがキャリントンフレアの100倍以上に達する巨大スーパーフレアが太陽で起きる可能性があることがわかった。スーパーフレアが起きる時,太陽は表面に黒いあばたのような模様が浮かび上がり,今の太陽とはかなり違った異様な姿になると考えられる。
著者
中島林彦 / 協力:柴田一成
中島は日経サイエンス編集長。柴田は京都大学大学院理学研究科附属天文台教授,同大学宇宙総合学研究ユニット副ユニット長。専門は太陽・宇宙プラズマ物理学。太陽などの恒星における電磁流体爆発現象(フレアやジェット)に関心がある。1994年,太陽観測衛星「ようこう」を管制していた時,大フレアの発生に気付き,その情報が米国の電力会社に伝えられ被害防止に役立った。
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