日経サイエンス  2012年11月号

特集:コズミックストーム

 宇宙には様々な“風”が吹いている。地上の風は空気の流れだが,宇宙の風は陽子などの電離ガス(プラズマ)の流れだ。太陽からは常時,プラズマが吹き出していて太陽風という。他の恒星の場合は恒星風または星風という。より大きなスケールでは銀河中心から吹き出す銀河風というものもある。

 

 そして地上と同様,宇宙に吹く風も時に非常に激しく,嵐のような状態になり,“雷光”も発する。よく知られているのは太陽嵐だ。太陽表面で起きる爆発現象フレアによってX線やガンマ線などの強力な電磁波が放射され,超高速の巨大なプラズマ雲が爆風のように太陽系空間を走る。それらが地球上空に到達するとオーロラの活動が活発になったり,地磁気が激しく変動する磁気嵐が発生したりする。無線通信の途絶や人工衛星の故障も起きる。影響が地上まで及んで大停電が起き,数百万人が不便を被ったこともあった。

 

 銀河スケールでは,太陽嵐よりはるかに巨大な嵐が起きる。一般に銀河中心には巨大なブラックホールが存在し,星やガスの塊を引き寄せ,のみ込んでいるが,それらの物質はのみ込まれる少し前の段階で,超高温になり,非常に強い電磁波やほぼ光速に加速されたプラズマを噴出する。太陽系が属する天の川銀河でも,過去に,こうした巨大な嵐が起きたことを示す証拠が見つかっている。もし太陽系が巨大ブラックホールからの嵐の直撃を受けたら,生命は絶滅するだろう。

 

 このような宇宙で起きる様々な嵐を総称して宇宙嵐,コズミックストームという。幸いなことに,人類を存亡の危機に立たせるような宇宙嵐はめったに襲来しない。しかし,宇宙嵐の全貌はよくわかっていないので,どのくらい安心なのか,はっきりいうことは難しい。ただ銀河スケールの嵐については,それほど心配はいらないようだ。近年の研究で,全宇宙に存在するあまたの銀河の中でも,天の川銀河は巨大な嵐があまり起きない,つまり生命が存在するのに恵まれた環境にあることがわかってきた。しかも天の川銀河の中でも,中心からかなり離れた,太陽系が位置するあたりが,生命にとって良い場所らしい。

 

 太陽嵐については現在の想定をはるかに上回る規模のものが起きる可能性があることがわかった。宇宙望遠鏡で,太陽に似た恒星をたくさん調べた結果,私たちがこれまで経験した最大のフレアの1000倍もの爆発エネルギーを放出する「スーパーフレア」が起きている星がいくつも見つかったからだ(42ページ)。本当に太陽でもスーパーフレアが起きる恐れがあるのか,本格的な研究がこれから始まる。

 

 

巨大ブラックホールと生命  C. シャーフ(コロンビア大学)

 

スーパーフレアの脅威  中島林彦(編集部) 協力:柴田一成(京都大学)

 

 

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