
昨年,素粒子ニュートリノが超光速で飛ぶという実験結果が発表されて大ニュースとなったが,誤りと判明した。実は約30年前にも似たような騒動があった。量子論の基本的性質を使って設計された「超光速通信機」なる装置の論文が学術誌に投稿されたのだ。「相対性理論に反するから絶対誤りがあるはず」と査読した専門家らは考えたが,見つけられなかった。査読者の1人は「この論文の間違いは中身の濃いものに違いなく,物理学に新たな進展をもたらすだろう」と主張した。実際,この論文がきっかけで誰も認識していなかった量子力学の新たな側面が見いだされた。こうした価値の高い発見をもたらすような“優れた間違い”の事例を紹介する。
著者
David Kaiser / Angela N. H. Creager
カイザーはマサチューセッツ工科大学の科学史の教授で,物理学科の上級講師。ハーバード大学で物理学と科学史のPh. D. を得た。
クリーガーはプリンストン大学で歴史学の教授を務め,生物学の歴史を研究している。カリフォルニア大学バークレー校で生化学のPh. D. を取得した後,ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学で科学史を学んだ。
原題名
The Right Way to Get It Wrong(SCIENTIFIC AMERICAN June 2012)