日経サイエンス  2012年10月号

特集 マイクロバイオーム

胃腸と脳の意外なつながり

M. コンスタンディ(サイエンスライター)

 私たち人間の胃腸にすみついている細菌などは,消化を助けたり免疫系の働きに影響を及ぼしたりしているだけではない。私たちの神経系と相互作用しうる化合物を作り出している。ここ2〜3年で,人体にすむこうした微生物が私たちの気分や感情,そしておそらくはパーソナリティ(人格)までを微妙に変えているらしいことがわかってきた。腸内微生物は脳での遺伝子発現を変え,記憶と学習に関係する重要な脳領域の発達を左右しているらしい。不安やストレスに対する私たちの反応にも影響しているようだ。いくつかのタイプの心理的抑うつ状態を治療するのに,プロバイオティック補助食品などの微生物療法が有効らしいことが,初期段階の臨床試験から示唆されている。いずれは,患者の腸内細菌叢を調べて評価することで,精神疾患の治療法を調整できるようになるかもしれない。

 

 

再録:別冊日経サイエンス237「食と健康」

再録:別冊日経サイエンス191 「心の迷宮 脳の神秘を探る」

著者

Moheb Constandi

神経生物学者から転じたサイエンスライターで,英国を拠点に活動している。Guardian紙が運営するブログNeurophilosophy(http://www.guardian.co.uk/science/neurophilosophy)を執筆。

原題名

Microbes on Your Mind(SCIENTIFIC AMERICAN MIND July/August 2012)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

マイクロバイーム腸内細菌叢