日経サイエンス  2012年9月号

パンデミックとバイオテロ リスク低減のジレンマ

古田彩(編集部)

 パンデミック対策か,それともバイオテロの防止か──東京大学の河岡義裕教授とオランダの研究グループが独立に行った実験の論文は,その公表の是非を巡って大論争を呼び起こした。内容は,高病原性の鳥インフルエンザウイルスH5N1が,たった数個の遺伝子変異で哺乳類の間で空気感染するようになることを示したというもの。パンデミック対策において重要な情報となる一方で,「テロリストがバイオ兵器を作る手がかりになる」との懸念を招き,米国の安全保障当局が発表に待ったをかけた。世界保健機関(WHO)を巻き込んだ7カ月間の論争の末,このほどついに論文は公表されたが,研究の「自主的停止」は続いている。

 

 

再録:別冊日経サイエンス188 「感染症 新たな闘いに向けて」

著者

古田彩

日経サイエンス編集部記者

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

鳥インフルエンザH5N1パンデミックNSABB