
人間の心臓は一生の間,多くの困難を耐え忍ぶ。心臓が何に耐え,何によって病むのかが先進的な画像技術によって明らかにされているが,最も直接的な情報は病理解剖から得られるものだ。
写真家のストラスハイム(Angela Strassheim)は2000年,ある死体保管所(場所は明らかにされていない)で,遺体から取り出されたばかりの心臓をいくつか撮影した。ここに示したのはその一部で,左下から時計回りに,銃弾に撃ち抜かれた心臓,肥満でダメージを受けたもの,がん患者の心臓,麻薬の使用で弱った心臓だ。中央は子供の健全な心臓。これらの画像が出版されるのは今回が初めてだ。
肥満者の心臓を健康な人の心臓と比べると,いかに不健康に形が変わっているかがわかる。米国立心肺血液研究所(NHLBI)のラウアー(Michael Lauer)によると,脂肪は冠動脈だけでなく心筋そのものにも害を及ぼすことが研究から示されている。この画像では心臓の外側に脂肪がついているのが見え,心筋は肥大している。一方,がんや麻薬が心臓に及ぼす影響は右の写真ではそれほど目につかないが,どちらも弁の機能と血流を変えてしまう場合がある。
研究上重要であるにもかかわらず,病理解剖の件数は減少傾向にある。米疾病対策センター(CDC)によると,1972年から2007年の間に米国での件数は50%以上も減った。どの種の死亡例を病理解剖の対象にするかを定める州法の規定が変更されたこと,死後の解剖をカバーする健康保険がないことなどによる。
CTなどで遺体を調べる技術が進んだものの,そうした画像撮影技術では一部の心臓病やがんを特定できない。ジョンズ・ホプキンズ大学のバートン(Elizabeth Burton)とモーサ=バシャ(Mahmud Mossa-Basha)はAnnals of Internal Medicine誌の最近の論説記事で,画像技術が改善するまでは「剖検が死因特定の王道であり続ける」と述べている。
原題名
Telltale Hearts(SCIENTIFIC AMERICAN May 2012)