日経サイエンス  2012年9月号

特集:ヒッグス粒子

南部陽一郎が語る 対称性の破れとヒッグス

語り:南部陽一郎(米シカゴ大学)

  ヒッグス粒子のおおもとのアイデアは,米シカゴ大学の南部陽一郎名誉教授が1960年代初めに提唱した「対称性の自発的破れ」にある。ヒッグス粒子の提唱者の1人である英エディンバラ大学のヒッグス名誉教授自身,ヒッグス粒子を考え出したきっかけは南部氏とヨナ=ラシニオ氏(当時は南部氏の研究室のポスドク)による1961年の論文だったと述懐している。さらに,このヒッグス粒子の理論を踏まえて登場した電弱統一理論(電磁気力と,原子核内で働く「弱い力」を統合する理論)の提唱者の1人である米テキサス大学オースティン校のワインバーグ教授も,自身の理論の背景には南部氏のアイデアがあったことを述べている。

 南部氏は2008年,「小林・益川理論」を提唱した小林誠,益川敏英両氏とともにノーベル物理学賞を受賞した。受賞業績は対称性の自発的破れだったが,それ以外にも,素粒子クォークを結びつける「強い力」の理論,量子色力学などでパイオニア的業績を上げた。現在の最先端の素粒子理論「超ひも理論」の源流も南部氏の「ひも理論」にある。

 湯川秀樹博士が創設した京都大学基礎物理学研究所において,2005年11月に研究会「学問の系譜 ─アインシュタインから湯川・朝永へ─」が開かれ,南部氏は「基礎物理学──過去と未来」と題して講演した(右ページ)。その中で南部氏は自身による対称性の自発的破れの発見からヒッグス粒子の登場に至る当時の研究の流れをかなり詳しく語っている。あまり知られていないが,ヒッグス機構につながる基本的なアイデアについても,南部氏はヒッグス氏らより5年早い1959年の論文で言及していたことを,講演の中で述べている。

 この講演の模様は,素粒子論グループの機関誌『素粒子論研究』の2006年3月号に収載された。本誌は2009年3月号で,南部氏のノーベル物理学賞受賞を記念して,その抜粋を再構成して掲載した。今回,ヒッグス粒子とみられる新粒子が発見されたことにちなみ,その講演抄録の関連する部分を抜き出して再掲載することにした。

 

 

 

「特集:ヒッグス粒子」をもっと知るには

再録:別冊日経サイエンス203「ヒッグスを超えて ポスト標準理論の素粒子物理学」

語り:南部陽一郎
南部は米シカゴ大学名誉教授。対称性の自発的破れの研究で2008年にノーベル物理学賞を受賞。量子色力学や「ひも理論」の研究などでもよく知られる。

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