日経サイエンス  2012年9月号

特集:ヒッグス粒子

最強加速器で発見

中島林彦(編集部) 協力:浅井祥仁(東京大学)

 スイス・ジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構(CERN)の世界最強の加速器LHCを用いた陽子衝突実験で2012年7月,万物に質量を与える素粒子,「ヒッグス粒子」とみられる新粒子が発見された。実験では日本も中心メンバー国として重要な貢献を果たした。ヒッグス粒子は,現在の素粒子物理学の基本的な枠組みである「標準モデル」において,唯一,存在が確認されていなかった。

 

 ただ,発表された実験結果を見ると,新粒子は標準モデルが予想するヒッグス粒子の性質の一部と合致することが判明した段階。2012年末までの実験で,新粒子が標準モデルのヒッグス粒子の性質と完全に合致するかどうかわかる。もし標準モデルと合致すれば,標準モデルは実験で完全に裏付けられた確固としたものになる。質量の起源に関してより深い研究が進むと同時に,いわゆる素粒子の「世代問題」など質量が絡む未解明の問題に新たな展開が期待できる。一方,もし標準モデルと合致しない部分の存在が明らかになれば,標準モデルを超える理論,「超対称性理論」の研究が飛躍的に進む可能性がある。

 

 

 

「特集:ヒッグス粒子」をもっと知るには

再録:別冊日経サイエンス203「ヒッグスを超えて ポスト標準理論の素粒子物理学」(改題)

著者

中島林彦 / 協力:浅井祥仁

中島は日経サイエンス編集長。

浅井は東京大学准教授(大学院理学系研究科物理学専攻)。LHCを用いたATLAS実験の日本グループに参加,TeV領域の新しい素粒子物理の研究に取り組む。特にヒッグス粒子と超対称性粒子の探索に力を注いでいる。

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