日経サイエンス  2012年8月号

特集:太陽異変

雲と太陽 深い関係

草野完也(名古屋大学)

 太陽活動が地球の気候に影響を与える可能性は古くから指摘されてきたが,太陽活動の変化に伴う放射量の変化はごくわずかであり,これで地球表面温度の変化を説明することはできない。デンマーク宇宙研究所の研究者は,全く新しい可能性を指摘している。太陽活動が銀河宇宙線の進入量を変化させることによって,気候が変わるとする。

 彼らは,銀河宇宙線が大気の一部をイオン化することによって雲粒が成長するための核(雲核)となるエアロゾル(大気中の微粒子)がより効果的に生成されると考えている。この仮説を確かめるための実験が,欧州合同原子核研究機構(CERN)で行われた。CLOUD実験と呼ばれるこの実験は,どんな結果を見せたのだろうか。

 宇宙線が雲を増やすメカニズムは他にも想定されている。雲の中にたまった電荷が小さな雲粒を引き付けたり,氷結を促したりすることで雲の成長が促されるとされるが,宇宙線が増えると大気中のイオンが増え,こうした仕組みが促進されるとみられる。太陽と気候の関係は,これまで考えられていたよりずっと複雑で,興味深いものではないかと考えられつつある。

 

 

再録:別冊日経サイエンス197「激変する気候」

著者

草野完也(くさの・かんや)

名古屋大学太陽地球環境研究所教授。太陽フレア発生の物理機構やトーラス型プラズマの自己組織化現象を解明した研究で知られる。コンピューターシミュレーションによって,太陽黒点活動が地球気候に与える影響を理解するための研究も進めている。北海道室蘭市の出身で,北海道の山々をこよなく愛する。

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