日経サイエンス  2012年8月号

特集:太陽異変

地球は冷えるか

宮原ひろ子(東京大学)

 太陽活動(太陽の黒点活動)が変わることで地球の気候にどのような影響が出るのだろうか。太陽放射の変化,中でも紫外線の放射量の変化など要因はいくつか考えられるが,最も有力なものとして,銀河宇宙線との関係が注目されている。地球に進入する宇宙線が増えると,低層の雲の量が増えるという有力な説がある。

 電荷を持つ宇宙線は,太陽の磁場が作り出すカレントシートという「壁」に阻まれると,太陽圏には進入しにくくなる。太陽活動が弱まり,このカレントシートの壁が低くなると,宇宙線は入り込みやすくなる。そこで,太陽活動の低下→太陽の磁場の弱まり→宇宙線の増加→雲の増加→太陽光の反射率の増加→気温低下というように,太陽活動の変動が宇宙線の変動を介して,気候変動へと一本の糸で結ばれることになる。

 太陽活動が極めて静かだった過去の代表的な時期として,17世紀を中心とした「マウンダー極小期」がある。この時期は,宇宙線の進入が多く,気候が寒冷だったことがわかっている。マウンダー極小期には,太陽が作り出すカレントシートはほとんど平らになり,この真っ平らになったカレントシートをつたって,大量の宇宙線が入ってきていた考えられる。太陽活動がだんだんと静かになってきている現在,マウンダー極小期と類似したともいえる,気候のパターンが見え始めている。

著者

宮原ひろ子(みやはら・ひろこ)

東京大学宇宙線研究所特任助教。樹木年輪から過去の宇宙線の量を推定する研究などを通じ,マウンダー極小期のような黒点が観測されなかった時期にも太陽周期が存在したことを立証。太陽活動と宇宙線,気候の関係をつなぐ「宇宙気候学」に強い関心をよせて研究を進めている。

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

コア宇宙線荷電粒子太陽圏カレントシート磁気中性面マウンダー極小期アルベド