日経サイエンス  2012年7月号

特集:量子重力への道

ファインマンを越えて 新アプローチで探る究極理論

Z. バーン(カリフォルニア大学ロサンゼルス校) L. J. ディクソン(米国立SLAC 加速器研究所) D. A. コソワー(フランス原子力庁サクレー研究所)

 現代物理学の究極の目標は万物を1つの理論体系で説明すること。万物は4つの力で相互に関係づけられている。これらのうち電磁気力と原子核内部で働く2つの力は量子力学の枠組みで理解されており,唯一の仲間はずれが重力だ。だから重力を量子力学の枠組みの中入れること,つまり量子重力の理論ができれば,究極の理論の実現に大きく近づく。
 しかし,これが難しい。重力を記述する一般相対性理論は,量子力学との相性が非常に悪いからだ。ここ数十年,世界の理論物理学者が量子重力の理論に挑んできたが,いまだに果たせずにいる。それが近年,新たなアプローチから迫ることで,難問解決に光明が見え始めた。
 その1つのアプローチが計算方法の革新。量子力学の枠組みの中で考えると重力は重力波という波として伝わると同時に,重力子という粒子が飛んでいくとみることができる。重力子は,ある瞬間に別種の粒子と反粒子のペアに姿を変えたかと思うと,両者が再び出会って重力子に戻るというようなことを繰り返しながら進む。
 この様子を従来の方法(ファインマンの方法)を用いてまじめに計算すると天文学的な時間がかかるため,その計算結果は推定の域にとどまっていたが,おそらくは無限大になり,物理学的に意味ある結果にはならないとみられていた。ところが新たに編み出された方法(ユニタリー性の方法)を用いると計算量が激減。実際に計算を行うと無限大にはならないことがわかった。さらに驚くべきことに,重力と他の力との間に未知の関係性が存在することが明らかになってきた。

 

 

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著者

Zvi Bern / Lance J. Dixon / David A. Kosower

バーンはカリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授。カリフォルニア大学サンタバーバラ校カブリ理論物理学研究所で最近開催された素粒子の高エネルギー散乱に関する3カ月間のワークショップの企画者の1人だ。彼には3人の子供がおり,最年長の1人はブランダイス大学で物理学を専攻している。下の2人は父親の職業が面白いかどうか思案中だ。

ディクソンは太陽系外へ向けた初の探査機,パイオニア10 号の打ち上げを見て以来,科学に興味を持った。現在,米国立SLAC加速器研究所教授。昨年,CERNに1年間滞在して実験家と交流し,本文で述べられている理論的予測を最大限活用する方法を検討した。

コソワーは旅行やスキー,ランニングと同じくらいの情熱を科学に注いでいる。フランス原子力庁サクレー研究所の理論物理学研究所の上級研究員で,現在,欧州研究会議の上級グラントを得ている。

原題名

Loops,Trees and the Search for New Physics(SCIENTIFIC AMERICAN May 2012)

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