日経サイエンス  2012年6月号

HIVに感染しない細胞

C. ジューン(ペンシルベニア大学) B. レバイン(ペンシルベニア大学)

 ここ数十年間でHIVへの感染が確認された人は全世界で6000万人を超え,死者は2000万人以上に達する。3人に1人が命を落としたことになるが,現在,抗HIV薬をきちんと服用すれば普通の生活を続けられるようになった。とはいえ,抗HIV薬でできるのは体内のウイルス量を抑えてエイズの発症を防ぐところまで。ウイルスを一掃することは難しいと考えられていた。ところが過去に一人だけ,体内からHIVが消え根治したとみられる人がいる。彼はたまたま白血病を発症し,治療のために骨髄移植を受けた。ドナーは生まれ持った遺伝子のためにHIVに感染しない免疫細胞を持っており、そのために移植を受けた患者の体内からHIVが排除されたと考えられる。この事実にヒントを得て,そうしたHIVに感染しない免疫細胞を患者の体内で増やす試みが進んでいる。初期の臨床試験では有望な見通しが得られたという。

 

訳注)2012年6月、治った見られた人の体内から少量のウイルスを検出したとの報告が出て、専門家の間で議論になっている。(2012年9月5日追記)。

 

監修:満屋裕明(熊本大学)

 

HIVに感染しない細胞をもっと知るには

再録:別冊日経サイエンス188 「感染症 新たな闘いに向けて」

著者

C. June / B. Levine

ジューンはペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院の医師で研究者。遺伝子組み換えによって免疫系を強化し,より効率的にがんやHIVと闘えるようにする方法を研究している。レバインは同大学医学大学院で細胞療法や遺伝子治療を研究する免疫学者で,同大学院の治療用細胞・ワクチン製造施設の所長。

原題名

Blocking HIV’s Attack(SCIENTIFIC AMERICAN March 2012)

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