日経サイエンス  2012年5月号

前立腺がん早期発見の落とし穴

M. B. ガーニック(ハーバード大学)

 がんは先進国で死因の上位を占め,日本では1980年代以降,ずっと第1位だ。「早期発見,早期治療」が基本で,乳がん検診をはじめ各種のがんに関する検診が広く行われている。ところが近年,前立腺がんに限っては,このアプローチが必ずしも正解ではないことが,欧米での大規模調査で明らかになった。自覚症状がない人が検診で前立腺がんと診断された場合,治療を受けることが多いが,そうした早期治療によっても全体の死亡率は大きく減っていない。逆に,不必要と思われる治療によって尿失禁やインポテンツなど深刻な副作用で苦しんでいる男性は米国では数十万人に上るとみられている。日本の現状についても報告する。

 日本でも厚生労働省の研究班と日本泌尿器科学会がそれぞれ,PSA検査について方針の異なるガイドラインをまとめている。米国と比較して解説する。

 

 

再録:別冊日経サイエンス204「先端医療の挑戦 再生医療,感染症,がん,創薬研究」

著者

Marc B. Garnick

ハーバード大学医学部とベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの前立腺がんを専門とする医師であり研究者でもある。ハーバード大学のAnnual Report on Prostate Diseaseの編集長も務める。

原題名

The Great Prostate Cancer Debate(SCIENTIFIC AMERICAN February 2012)

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