日経サイエンス  2012年5月号

フロントランナー 挑む 第15回

文意が同じかどうかがわかるコンピューターを作る:宮尾祐介

古田彩(編集部)

異なる表現で書かれた2つの文の意味が同じかどうかを判断する

人間なら造作もない言語認識の基本中の基本を

機械の言葉で実現する方法を探る

 

 コンピューターの自動翻訳が,近ごろずいぶん良くなった。そう感じている人は多いだろう。当たり外れは大きいものの,そこそこ上手に訳してくれることもある。コンピューターの自然言語の処理能力が,ここ10年で格段に向上したのは間違いない。

 

 だがそれは,コンピューターが人間のように言葉を「理解」できるようになったことを意味しない。むしろその反対だ。大量の文書データを解析し,単語の使われ方から規則性を学習して文章を作り上げる。そうしたコンピューターならではの手法に転換した点に,成功の最大の理由がある。人間の言語処理のプロセスを解明し,コンピューターに実装するというかつてのアプローチは,すっかり人気がなくなった。

 

 だが国立情報学研究所(NII)の宮尾祐介は,あえてその潮流の逆を行く。人間が異なる文章の意味を「同じ」だと理解する仕組みを追究し,コンピューターのプログラムに乗せようとしているのだ。迂遠にも見える方法を,あえて取るのはなぜだろうか。そう聞くと「せめてそれくらいは,人間の知能の働きを理解したいんです」と控えめに微笑んだ。
(文中敬称略)

 

 

再録:「フロントランナー 挑戦する科学者」

 

宮尾祐介(みやお・ゆうすけ)
国立情報学研究所准教授。1976年東京都生まれ。98年東京大学理学部情報科学科卒業。2001年より同大助手,06年同大学院で博士号(情報理工学)取得。10年より現職。最近の悩みは,忙しくてスノーボードになかなか行けないこと。「スキー場の近くに研究所が引っ越してくれるといいんですが」。

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