日経サイエンス  2012年4月号

特集:小澤の不等式

不確定性原理の再出発

古田彩(編集部)

 今から約80年前,量子力学の創始者の1人であるハイゼンベルク(Werner Heisenberg)は,できたばかりの量子力学に基づいて,ひとつの式を提示した。「位置と運動量の両方を正確に知ることは原理的に不可能である」と語る式だ。

 

 それまでの物理学では「今この瞬間に起きていることは正確に測定できる。未来はその結果から予測できる」とされていた。ハイゼンベルクはそうした前提を覆し,「現在の状態を乱さずにすべてを知ることはできない。ゆえに未来は予測できない」と主張した。この見方は量子力学がもたらした新たな思想として,物理学を超えて広がった。

 

 ハイゼンベルクの式は当初,量子力学の基盤となり,理論のさらなる発展をもたらすと期待された。だが予想通りには進まなかった。式は限られた思考実験から導かれたもので一般性に乏しく,数学的な定義もなかった。量子力学の新たな世界観を打ち立てながら,実際の研究で使うのは難しく,もっと使い勝手のよい,だが意味合いの異なるもうひとつの不確定性原理の式と混同された。

 

 小澤の不等式はハイゼンベルクの不確定性原理に新たな形を与え,かつてハイゼンベルクが追究した「測定の限界はどこにあるか」との問いに,量子力学の理論で答えた。そしてこのたび実験で実証された。理論の裏づけを得,実験実証を経て再出発した不確定性原理は,今後どこへ向かい、何をもたらすのか。専門家の見方を聞いた。

 

 

再録:別冊日経サイエンス199「量子の逆説」

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

不確定性原理不確定性関係 量子測定理論完全正値インストルメントハイゼンベルクケナードロバートソン朝永振一郎誤差擾乱量子ゆらぎ決定論的世界観量子力学的世界観量子情報科学重力波