
姿形を変幻自在に変える不思議な単細胞生物「粘菌」
この粘菌が驚くべき能力を秘めていることを明らかにした
神経系もないのに迷路を解き,時間的情報も記憶できるようだ
顕微鏡の視野下,黄金色をしたゼリー状の塊が半透明な管の中を穏やかに流れている。その流れは止まったかと思うと今度は逆方向へ流れ始め,しばらく後,その流れが止まったかと思うと今度は再び逆方向に……。「粘菌」と呼ばれる単細胞生物はアメーバの姿で動き回り,環境がよいと,どんどん大きくなって他の個体とも融合,目に見えるほどのサイズの黄色いシート状の姿「変形体」になる。シート内には管が網の目のように走り,管内には液状化した粘菌の体の一部が流れていて,一定リズムで流れの向きが反転する。「顕微鏡を覗いて,この流れとそのリズムを初めて目のあたりにした時の感激は今でも忘れられない」。公立はこだて未来大学教授の中垣俊之は粘菌に魅せられた研究者だ。
(文中敬称略)
中垣俊之(なかがき・としゆき)公立はこだて未来大学システム情報科学部教授。1963年愛知県生まれ。1989年北海道大学大学院薬学研究科修士課程修了。5年ほど製薬企業に勤めた後,名古屋大学大学院人間情報学研究科の博士課程に進み,博士号(学術博士)を取得。理化学研究所,北海道大学電子科学研究所を経て2010年4月から現職。2000年,粘菌が迷路の最短ルートを解けることを示した論文をNature誌に発表,注目される。