日経サイエンス  2012年3月号

脳とこころのスイッチ エピジェネティクス最前線

E. J. ネスラー(マウントサイナイ医療センター)

 同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも,薬物依存症やうつ病などの精神疾患になる人とならない人がいる。その理由は何だろう? 

 

 ここ10年の研究で,環境が遺伝子の情報を変えることなく,その振る舞いを変化させる様々な分子メカニズムが明らかになってきた。遺伝子が変異するのではなく,遺伝子の活性を決める化学的な標識が遺伝子に付くことを「エピジェネティック」な修飾という。薬物使用や慢性ストレスがエピジェネティックな変化を引き起こし,脳の反応を変えることを示す証拠が見つかり始めている。

 

 この変化はしばしば生涯残り,薬物依存症やうつ病などの精神疾患が発症するか否かを左右している可能性がある。

 
 
再録:別冊日経サイエンス207「心を探る 記憶と知覚の脳科学」

著者

Eric J. Nestler

ニューヨークにあるマウントサイナイ医療センターの神経科学のナッシュ・ファミリー教授で,同センターのフリードマン脳研究所所長でもある。彼の研究室は薬物依存症とうつ病の分子メカニズムを解明することに焦点を当てている。

原題名

Hidden Switches in the Mind(SCIENTIFIC AMERICAN December 2011)

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