
貴金属が不可欠とされていたクロスカップリング反応を
鉄というありふれた金属で実現した
資源問題を背景に触媒のスタンダード技術を目指す
20世紀最大の発明の1つとされる「ハーバー・ボッシュ法」がドイツの大手化学会社BASFによって実用化されたのは1912年。肥料や火薬などの原料となるアンモニアを空気中の窒素を原料に合成するこのプロセスでは,酸化鉄を主成分とする鉄触媒が使われた。それから1世紀,性能が低下しやすいなどの問題ですっかり廃れていた鉄触媒が研究者の注目を集めている。その中心にいるのが京都大学化学研究所教授の中村正治だ。貴金属を使うのが当たり前だった「クロスカップリング反応」を鉄触媒で実現。「鉄の特性を生かした様々な化学反応を実現したい」と意気込む。(文中敬称略)
中村正治(なかむら・まさはる) 京都大学化学研究所元素科学国際研究センター教授。1967年東京都杉並区生まれ。1991年東京理科大学理学部応用化学科卒業,1996年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。東京大学助手,同助教授などを経て,2006年京都大学化学研究所教授。日本学術振興会の「最先端・次世代研究開発支援プログラム」に「レアメタルを凌駕する鉄触媒による精密有機合成化学の開拓」が採択された。「学生時代に授業を聞いていなかったから,上手な教え方がわからず試行錯誤を続けている」と笑う。