日経サイエンス  2012年2月号

特集:NASAが目指す火星への道

生命は火星からやって来た?

D. ウォームフラッシュ(ポートランド州立大学)

 地球の生命は火星で生まれたのだろうか? この疑問はここ20年間にSFの世界から飛び出し,科学の本流で真剣に議論されるようになった。実際,火星の石が地球に飛来した例が見つかっているし,年間に1トンもの火星由来の物質が地球に衝突していると推定される。それに乗って微生物が地球に来ているかもしれない。

 これらの石を地球行きの軌道に放り込んだ小惑星や彗星の衝突は破壊的で高圧を伴う出来事だが,実験によると,ある種の生命体は生き延びられるようだ。火星隕石が地球大気に突入しても,表面から深さ数mmが熱せられるだけなので,それよりも深いところに潜んでいた微生物は焼き殺されずに済む。

 火星を出発してから地球にたどり着くまで,生命体は岩石の船内に潜み,惑星間空間という大海原を生きて渡らねばならない。軌道計算によると,ほとんどの火星隕石は数千〜数百万年かけて地球に飛んできているが,少数(1000万個に1個程度)は1年程度で到着する。その間,生物は生きながらえることができるだろうか? その答え探しが始まろうとしている。

 ロシア連邦宇宙局は2011年11月9日,探査機「グルント」を火星の衛星フォボスに向けて打ち上げた(編集部注:12月中旬現在,同機は火星に向かう軌道に乗れず,制御不能)。バスケットボール大のカプセルが搭載されており,そこにフォボスの土を採取して2014年に地球に帰還する予定だ。このカプセル内には,惑星協会が開発した生命体惑星間飛行実験(LIFE)と呼ばれる小さな容器もあり,地球の生命体が“搭乗”している。これらの生物は,地球生物の3つの分類である真正細菌(バクテリア),古細菌,真核生物をそれぞれ代表している。いくつかは,火星にいると推測される生命体に似ているという理由で選ばれた。また,耐性の強い微生物が実際にどれだけ生き延びられるかを確認するという目的で選ばれた生命体もある。

著者

David Warmflash

ポートランド州立大学の宇宙生物学者で,惑星協会のフォボスLIFEプロジェクトの科学チームリーダー。2011年5月に実施されたシャトルLIFEプロジェクトでスペースシャトル・エンデバーに搭載したバクテリアと古細菌を研究している。

原題名

The Smallest Astronauts(SCIENTIFIC AMERICAN November 2011)

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