日経サイエンス  2012年2月号

特集:NASAが目指す火星への道

進む生命探査 フェニックスからキュリオシティーへ

P. H. スミス(アリゾナ大学)

 最新鋭の分析装置群を搭載した火星探査車マーズ・サイエンス・ラボラトリー(キュリオシティー)が2011年11月に打ち上げられた。最新の分析装置で火星の土壌を調べ,生命の痕跡を探すことになっている。キュリオシティーが挑むテーマは,2008年に行われた着陸機フェニックスの探査結果を踏まえて設定された部分がある。フェニックスは火星の土壌が1976年のバイキングによる探査で示されたような生命が存在できない過酷な環境ではないことを明らかにした。

 フェニックスは氷や炭酸カルシウムなど,科学者が存在すると予想していたものの確認できなかった物質に加え,過塩素酸塩や雪片など予想されていなかった物質も発見した。私たちの隣の赤い惑星は,決して乾燥しきった不毛の地ではなく,現在も生命が存在しうる惑星なのかもしれない。

 こうした科学的発見を受け,いまキュリオシティーが火星に向かおうとしている。この機会に過去を振り返ってみるのもよいだろう。惑星探査はこれまで山あり谷ありの波乱の道をたどってきた。フェニックスにいたっては,計画中止になる瀬戸際だった。まさに不死鳥のようによみがえったフェニックスが,現在のキュリオシティーにつながる好奇心を生んだのだ。

著者

Peter H. Smith

アリゾナ大学月惑星研究所教授。子どもの頃は熱心なSF小説ファンで,読書を通じて太陽系をバーチャル旅行していた。この愛好が転じて本職となり,深宇宙プローブのパイオニア11号から火星探査車のソジャーナ,スピリット, オポチュニティーまで,多くの有名な無人惑星探査計画に参加してきた。2010年,NASAのエクセプショナル・サイエンティフック・アチーブメント・メダルを受賞。

原題名

Digging Mars(SCIENTIFIC AMERICAN November 2011)

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