
東日本大震災によって日本の地震研究は大きな見直しを迫られている。キーワードは「スーパーサイクル」。それぞれの震源域では数十年から百年程度の間隔で大地震が起きているが,そうした大地震が何回か続いて起きると,近隣の複数の震源域が連動して動き,非常に巨大な地震が発生する。つまり普通の大地震の何サイクル分かを1つの大きなサイクルとする巨大地震の存在だ。
宮城県沖では約600年とみられるスーパーサイクルが“満期”に達して今回の巨大地震となった。もう1つ,現在がほぼ満期に達している地域がある。北海道東部の根室から十勝にかけての太平洋岸だ。一方,GPS観測網のデータをもとにした歪みの蓄積状況を示す全国マップを見ると,速いペースで歪みが広域で蓄積している地域がある。やはり北海道東方沖だ。
宮城県沖では,地層調査とGPS観測が示唆していた通り巨大地震が起きた。だからといって北海道東方沖でも同じように物事が進むかどうかはわからない。しかし,先の震災による約2万人の犠牲者と数十万人に及ぶ被災者,さらには福島第1原子力発電所事故による被害を考えれば,これらの研究報告を真摯に受け止め,予断を持たずに対策を講ずる必要がある。
首都圏への影響で気がかりなのは,相模湾から房総半島南方にかけても歪みが蓄積しつつあることだ。このあたりの巨大地震は,この先100年くらいは起きそうにないと想定されているが,その通りになるかどうかわからない。近年の研究によると,GPSでわかった歪みの蓄積領域のさらに沖合まで,巨大地震の震源域が広がっている可能性がある(現在のGPS観測網は陸域に限定されるので,陸地から遠く離れた領域については歪みの蓄積を検知できない)。調査研究が急がれる。
再録:別冊日経サイエンス217 「大地震と大噴火 日本列島の地下を探る」
著者
中島林彦 / 協力:宍倉正展
中島は日経サイエンス編集部。宍倉は産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター海溝型地震履歴研究チームのチーム長。宍倉ら産総研の研究グループは津浪堆積物を調査研究,東北地方太平洋岸で巨大地震が近い将来,起きる可能性が高いことを,東日本大震災が発生する数年前に発表し,警鐘を鳴らしていた。
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