日経サイエンス  2012年1月号

ニューヨークはいかに犯罪を減らしたか

F. E. ジムリング(カリフォルニア大学バークレー校)

 犯罪都市ニューヨーク──。かつてはそんなふうに呼ばれていた。1990年代初め,ニューヨークの殺人事件発生率は米国の5大都市(ニューヨーク,シカゴ,ロサンゼルス,ヒューストン,フィラデルフィア)の中で最悪だった。それから20年,犯罪学者が驚く変化が起きた。殺人事件発生率は5都市の中で最も低くなり,他の4都市の平均値のわずか40%の水準だ。強盗は20年前の1/6以下に,車を盗まれる確率は1/16に下がった。

 その間,貧困率や失業率が他の都市より大きく下がったわけでも,麻薬撲滅戦争に勝ったわけでも,犯罪者を刑務所に大勢送ったわけでもない。街に多くの警官を配備し,犯罪集中地域の取り締まりを強化したことが奇跡を生んだ。

 この成功事例は従来の犯罪学の常識を覆した。人は生まれつき犯罪者になると決まっているわけではない。他の都市でも,街に多くの警官を配備して,犯罪の集中する「ホットスポット」の取り締まりを強化すれば,同様の成果が得られるだろう。

 

 

再録:別冊日経サイエンス189 「都市の力 古代から未来へ」

著者

Franklin E. Zimring

カリフォルニア大学バークレー校法学部教授。死刑,収監の規模,薬物規制などに関するいくつかの著作がある。1991年,SCIENTIFIC AMERICANに火器と暴力に関する記事を執筆。

原題名

How New York Beat Crime(SCIENTIFIC AMERICAN August 2011)

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