
ユーモラスな姿から一般にもなじみがあるモグラ
しかし,その生態や分布には謎が多い
世界を股にかけ,未知のモグラを探して旅は続く
新宿の高層ビル街を間近に望む国立科学博物館(科博)新宿分館。その標本収蔵室には古めかしい木製の和タンスのような棚が並ぶ。「このあたりはみんなモグラ」といいながら動物研究部研究員の川田伸一郎が引き出しを開けると,黒っぽいフワフワしたモグラの標本がたくさん姿を現した。取り出した1匹に目を近づけてみる(右下の写真)。尖った鼻面の上面が少し茶色っぽくてテカテカしている。その部分は細長い三角形をしていて,チャーミングなワンポイントのようにも見える。素人にはわからないが,モグラは普通,この部分は四角形。専門家なら驚いて目をこするところだ。「ミャンマーで捕まえた珍しいモグラ。これから論文にします」。世界を股にかけるモグラ博士の顔がほころんだ。(文中敬称略)
川田伸一郎(かわだ・しんいちろう) 国立科学博物館 動物研究部研究員。1973年岡山県生まれ。97年弘前大学大学院修士課程修了,98年名古屋大学大学院博士課程に進み,2002年博士号取得。06年から現職。文章を書くのが結構好きで『モグラ博士のモグラの話』(岩波ジュニア新書)と『モグラ 見えないものへの探求心』(東海大学出版会)という一般向けの著作がある。