日経サイエンス  2011年12月号

スペシャルリポート 都市の力

知恵を生む場所

SCIENTIFIC AMERICAN編集部

 20世紀,都市人口は2億5000万人から28億人へと10倍以上に拡大した。国連によると,今後数十年は都市人口の増加が続き,2050年までに世界人口は90億人を超え,都市生活者は60億人を超すと予想される。今後30年間に生まれる人々の3人に1人は都市に住むことになるだろう。
 かつて,多くの思索家たちは,都市を貧困と犯罪,環境汚染,混雑,不健康の中心であると考えた。しかし近年,この考え方は世界人口の都市化とともに変わった。都市に住んだほうが豊かに生きられることを,多くの専門家が認識するようになった。
 これは都市生活の諸問題が解消するということではない。特にアジアとアフリカの貧困地域で急成長している都市は,大きな苦難を抱えている。しかし,都市のスラムにさえ,農地や村にはない数々の利点がある。
 都市は諸問題の源泉ではなく,それらを解決するチャンスの場であるとみられるようになった。上下水道への投資の結果,先進諸国の都市は疫病の巣窟から健康の砦に変わった。自動車事故やピストル自殺による死亡リスクは都市生活者のほうが低い。大都市の視点から見ると,気候変動の問題も手に負えないものではなくなる。
 都市生活に最も期待できるインパクトは,私たちの知性に及ぼす効果だろう。人間は社会的動物だ。私たちはすぐ近くにいる別の人たちから刺激を受ける。次世代の大仕事をやってのける鋭敏な若い知性は,おそらくツイッター世界でさえずっている。つまり,デジタルのメタ都市に住んでいる。そして幸いなことに,彼らは現実の物理的都市の住人でもある。技術は都市生活の形を変えつつあり,都市生活をさらに知的生産性の高いものにしつつあるが,その時その時に近くにいる人々と容易にアイデアを交換できるという都市生活最大の要点にすぐに取って代わることはないだろう。

 

 

再録:別冊日経サイエンス189 「都市の力 古代から未来へ」

原題名

Street-Savvy(SCIENTIFIC AMERICAN September 2011)

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