日経サイエンス  2011年11月号

サイエンス・イン・ピクチャー

樹上の宝

N. バーイ(サイエンスライター)

 小枝や草の茎から羊の毛,馬のしっぽの毛まで,鳥たちは様々なものを巣に編み込んで独自の世界を作り出す。だから,鳥たちが残した住みかは,彼らの生活と生息環境を知る手がかりとなる。古代の遺跡を通じて人類史を垣間見ることができるのと同様だ。
 南米の鳴き鳥たちの複雑な系譜を解きほぐすのに,その巣の構造的多様性が利用されてきた。ハクトウワシの巣に見られる獲物の残骸から,この鳥の食性が明らかになった。また,大昔のハヤブサの巣に残っていた羽と糞について放射性炭素年代測定をした結果から,グリーンランドの氷床が後退した時期に関する手がかりが得られた。このほか,鳥たちが巣の装飾を配偶者獲得競争や互いのコミュニケーションに利用している例が以前に考えられていたよりも多いことが,今年前半にScience誌に発表された論文など現在進行中の研究から示されている。
 ここに掲載した写真は各地の博物館が所蔵する資料を写真家のビールズ(Sharon Beals)が撮影した。ロサンゼルスにある西部脊椎動物学基金(鳥の巣について1万8000件という世界最大のコレクションを誇る)の元理事キフ(Lloyd Kiff)は,鳥の巣はほとんど未利用のまま残されている科学研究資料だという。巣は鳥たち以外の者にも役立つ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス227「鳥のサイエンス 知られざる生態の謎を解く」

著者

Nina Bai

ニューヨークを拠点とするサイエンスライター。

原題名

Treasure in the Trees(SCIENTIFIC AMERICAN August 2011)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

放射性炭素年代測定食性ハウスフィンチガラパゴスフィンチアメリカツリスガラ