日経サイエンス  2011年10月号

知能の物理学

D. フォックス(フリーライター)

 動物(哺乳類)の脳は基本構造がほとんど同じで,脳を構成する神経細胞も同じようなもの。だとするとコンピューターになぞらえれば,脳は大きいほど高性能,つまり賢くなるのだろうか? 例えばイルカやゾウ,クジラの脳は人間の脳よりも大きいが,彼らは私たちより賢いのだろうか?
 さまざまな動物について脳と体重の対数グラフをとると,脳の重さは体重の3/4乗に比例することがわかる。身体が大きいほど,生命活動を維持するために脳の重量も増すわけで,脳が大きいことが即,賢いわけではない。この3/4乗則からどれほど逸脱して脳が重いのかが賢さの指標となる。実際,人間の脳が最も乖離している。人間に続くのはイルカやサル,ネズミ。逆にクジラやカバの脳は3/4乗則から見積もられる重さより小さい。人間が現在も進化の途上にあるとすると,脳はさらに体重不相応に重くなるのだろうか? 最近の研究によると,どうやら人間の脳は物理法則が課す限界に達しているようだ。ただ,ここまで技術を発達させた人間には,この限界を突破できる道がある。

 

 

再録:別冊日経サイエンス191 「心の迷宮 脳の神秘を探る」

著者

Douglas Fox

サンフランシスコ在住のフリーライター。New Scientist誌やDiscover誌,Christian Science Monitor紙などに寄稿している。最近,米国ジャーナリスト著者協会からAward for Reporting on a Significant Topicを受賞したほか,多数の賞に輝いている。

原題名

The Limits of Intelligence(SCIENTIFIC AMERICAN July 2011)

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