体長は腕の長さを含めると10mをゆうに超える
深海に生息する世界最大のイカ,ダイオウイカ
謎に包まれた巨大イカの生態が明かされ始めた
「何か変なものが付いているよ。サメかな?」「あ! ダイオウイカ!」「ダイオウイカが釣れてしまった!」。2006年,小笠原近海でダイオウイカの生きている姿が世界で初めてビデオに収められた。冒頭のやり取りは,しかけにかかったダイオウイカが海面に姿を現した時の模様だ。ダイオウイカは深海に生息する世界最大のイカ。捕らえられたダイオウイカは胴の長さ約1.4m。目は皿ほどもあり,大きな漏斗(ろうと)からポンプのように水を噴射した。ダイオウとは「大王」のこと。船乗りが恐れた海の魔物クラーケンの正体は,このイカといわれる。生態は謎に包まれ,時折,岸に打ち上げられた例が報告されるだけ。生きた姿の映像は世界に流れた。深海イカ研究の第一人者である国立科学博物館の窪寺恒己の4年越しの苦労が実った。
(文中敬称略)
窪寺恒己(くぼでら・つねみ) 国立科学博物館標本センターコレクション・ディレクター。1951年東京生まれ。北海道大学大学院を修了。水産学博士。米オレゴン州立大学海洋学部で研究助手。84 年に国立科学博物館に。海生無脊椎動物研究グループ長などを経て今年4月から現職。2004 年,小笠原沖の深海で,ダイオウイカの姿を世界で初めて水中カメラでとらえ世界的ニュースとなった。07年,米ニューズウィーク誌の「世界が尊敬する100人の日本人」の1人に選ばれる。