
巨大加速器を用いて自然界の物質と反物質の不均衡の謎を解く
その素粒子実験の知識と経験を生かし
宇宙誕生直後に生じた原始重力波の観測に挑む
筑波山を間近に望む高エネルギー加速器研究機構(KEK)は素粒子研究の世界的拠点。物質の根源を探るため,巨大加速器を使って極微の世界を探っている。そんなKEKで今,宇宙を丸ごと相手にする観測装置の開発が進んでいる。ターゲットは宇宙誕生直後のインフレーションで生じたと考えられる原始重力波。いわば宇宙の“うぶ声”で,決定的証拠をとらえたら宇宙論研究のエポックとなる。超ミクロから超マクロへと研究の方向性を180度変えたこのプロジェクトを立ち上げた羽澄昌史。羽澄自身にとっても研究人生の大転換だ。きっかけは6年前,生死の境をさまよう大病のベッドでの思索だった。(文中敬称略)
羽澄昌史(はずみ・まさし) 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所教授。1964 年愛知県生まれ。93年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了,大阪大学助手を経て2001年高エネルギー加速器研究機構助教授,07年から現職。科学研究費新学術領域研究「背景放射で拓く宇宙創成の物理」の領域代表者を務める。